個別分析を推奨する理由

一斉分析の有用性と課題

平成18年5月よりポジティブリスト制度が施行され、食品衛生法で取り締まることのできる農薬成分が爆発的に増加したと同時に今日までに、多成分を同時に抽出し測定を行う「一斉分析」も類まれなる発展を遂げてきました。
「一斉分析」は、その迅速さと効率性からポジティブリスト制度下の生鮮食品等の流通において多大なる貢献を果たしてきました。また、これからも「安全」を確認する最も合理的な方法のひとつであり続けるのは疑いようがありません。

農薬は、使用後に様々な要因によって分解を受けて別の成分に変化、または消長しその殺虫、殺菌、除草機構を失います。しかし、中には分解を受け別の成分になってもその有毒性を知見的に排除することができないものがあります。
このような代謝物等は科学的に検討され、検査結果を残留基準値と比較し適否を判断する際に考慮に入れなければならないものとして食品衛生法で定められております。

「一斉分析」は優れた検査方法でありますが、分析機関と成分によっては食品衛生法で定められた代謝物を含まずいわゆる「本体」のみ検査した結果が結果報告書に記載されます。この仕組みを認識した上で、検査結果を読み解いてリスクを考慮し品質管理に生かしていくことがとても重要だと考えられます。
しかし、「一斉分析」の検査結果を、「一斉分析」で「本体」が検出されてなければ「代謝物」も無く、残留基準値超過のリスクはない、という指標にするのは問題があると考えられます。代謝物を含んだ検査方法が厚生労働省から通知されているのは、「本体」、「代謝物」両方考慮する必要があるから明示されているのです。下記に、過去の当センターの事例を紹介いたします。

事例1 農薬成分フロニカミド

食品衛生法では、農産物のフロニカミド試験の分析対象化合物は

  1. (1)フロニカミド(本体)
  2. (2)TFNG(N-(4-トリフルオロメチルニコチノイル)グリシン)
  3. (3)TFNA(4-トリフルオロメチルニコチン酸 )

とされています。
残留農薬基準値を比較する際は、上記検出値を次式により合計し比較します。

フロニカミド検出量(mg/kg)+TFNG検出量×0.92+TFNA検出量×1.20

あるパプリカを検査したところ
フロニカミド(不検出)+TFNG(0.437mg/kg×0.92)+TFNA(不検出)=0.4mg/kg
という結果でした。

事例2 農薬成分セトキシジム

食品衛生法における、セトキシジム試験の分析対象化合物は

  1. (1)セトキシジム
  2. (2)MSO
  3. (3)MSO2
  4. (4)M2S
  5. (5)M2SO
  6. (6)M2SO2
  7. (7)5-OH-MSO2

とされており、これら7つの成分を試験法中のオキサゾール化反応、スルホン化反応の工程によって2つの成分(M2SO2、6-OH-M2SO2)に収斂し、残留農薬基準値を比較する際は、次式により合計し比較します。

M2SO2(上記成分(1)~(6)成分)+6-OH-M2SO2(上記成分(7)変換分)×0.87

下記はあるグリンピースの一斉分析検査と個別試験検査結果です。
一斉検査(検査対象化合物:セトキシジム本体) ⇒ 結果 不検出(定量下限値0.01mg/kg)
個別分析検査結果(検査対象化合物(1)~(7)全て) ⇒ 結果 0.27mg/kg

本体検査のみのリスク

上記両事例ともに、いわゆる本体の成分は検出されず、代謝物が検出した事例です。特に事例(1)では、残留農薬基準値が0.4mg/kgであり、基準値超過ではなかったもののフロニカミド本体は不検出であったため、一斉分析での本体の検査結果だけを指標としては、非常にリスクの高かった事例となります。

現在、当センターを含めどの検査機関においても一斉検査では本体のみの検査成分がいくつか存在しています。これは迅速性、効率性の点からプラスの要素であること間違いありませんがリスクが存在することも確かです。大切なのは、上記のような例が存在することを把握した上で「一斉分析結果」を読み解き、時には生産履歴情報を確認、必要であればしっかり個別分析を実施し、商品の品質管理に役立てていくことです。

当センターでは、難易度の高い個別分析も熟練の技術で実施しております。ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせ下さい。